[東京 14日 ロイター] – 天谷知子・前金融国際審議官はロイターのインタビューで、日銀がマイナス金利解除に踏み切っても、市場の混乱には結びつきにくいとの見方を示した。ただ、大規模緩和が非常に長い間行われてきたため、金利のある状態に人々の行動がついていかない可能性があると指摘。金融庁や日銀は、金融機関が流動性の管理など日々のオペレーションをしっかりやっているか注視していく必要があると語った。
<金利がない状態は「非常に異常」>
市場では3―4月にも日銀がマイナス金利解除を含む政策修正に踏み切るとの見方が強い。天谷氏は「金融システムにとって、金利がない状態というのは非常に異常」と指摘。マイナス金利解除に伴う金融システムへの影響については「低金利、ゼロ金利を前提としてマーケットでの資金調達が発達しているわけではないので、市場の混乱には結びつきにくい」と予想した。
ただ、大規模緩和が非常に長い期間行われてきたため「金利のある状態でどうなるか、人々の行動がついていかない可能性があることは注意しなければならない」と述べた。「日銀がマイナス金利をやめたからと言って、あらゆる金利が同じように動くわけではない」とし、市場、預金金利、貸出金利にどういうタイムラグで波及するのか「知見が誰にもない」という。
日銀としても、マイナス金利解除後の利上げ判断に当たっては「マーケットプレイヤーが新しい環境にきちんと適応しているということを確認する時間は必要になるのではないか」と指摘した。
<注意すべきは流動性の管理>
マイナス金利解除時に金融庁や日銀が注意しなければならないこととして、天谷氏は「流動性の管理などについて金利が上がることを前提としたときのオペレーションをしっかりやれるように見ていくということではないか」と述べた。昨年3月に破たんした米シリコンバレー銀行の問題も「突き詰めれば流動性のオペレーションの話」だとした。
天谷氏は「日本の銀行は預金が十分にあり、全体の構造としては非常に強固だが、資金がタダで手に入るという環境にあまりにも慣れている」と警戒感を示し、「金融の世界は理屈から言えば大丈夫なはずのものも、1カ所でもオペレーションの歪みや狂いがあると波及してしまう」と述べた。その上で、マイナス金利の解除後はどういう形の資金調達をするのが一番効率的か、各金融機関が意思決定しなければいけなくなると語った。
<大規模緩和の副作用は「長期継続」>
天谷氏は、2013年4月以降の日銀の大規模緩和について、日本経済に安定がもたらされたと評価する一方、「副作用は大規模緩和の期間が非常に長かったことだ」と指摘。「あまりにも長くなったことで、金利のある状態に戻ることのハードルがすごく上がってしまった」と述べた。
天谷氏は「正常な銀行ビジネスに戻れる時が迫っている」と語り、マイナス金利解除後は「資金がタダということに慣れてしまった実体経済が、資金コストを上回る儲けを出すビジネスに動けるかが重要になる」と話した。
天谷氏は1986年に大蔵省(現在の財務省)に入省。大蔵省や金融庁で金融監督、国際金融規制などに携わった。金融庁国際・監督局担当審議官などを経て、2021年7月から23年7月まで金融国際審議官。現在は農林中金総合研究所でエグゼクティブアドバイザーを務めている。
インタビューは13日に実施しました。